バンギャル日和2

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学徒

香りとは罪である

 PEACEの香りが離れてくれない。

 現実が戻って来てくれない。

 

 先日、村上春樹の小説にでも出てきそうな一夜を過ごした。遥々東京からわたしに会いに来てくれた彼とは初対面で、まさかこんな展開になるとはお互い思っていなかったのだけれど、あまりの居心地のよさに離れることが出来なかった。哲学を専攻しているもの同士学問の話に花を咲かせ、美味しいお酒を嗜み、そして彼はPEACEの煙を燻らせた。

 

 「隣で寝ていてもいいですか」

 この一言にくらくらとした。人の手って良いですよね、と彼は私の頬に手を当てながら言った。手の温もりが身体から抜けない。隣で寄り添いながら語り合ったあれこれを反芻している。最後のキスはタバコのフレーバーがした。宇多田ヒカルですか、と二人で笑った。

 

 現実に戻らなければならない。夢はたまに見るから良いものなのだ。

 彼もまた現実が戻って来てくれないと言う。それでは飽き足りず会いたいと言う。わたしも会いたいと言う。叶わないから言いたいことを言う。次に会うときは季節も、場所も、変わっているかもしれないけれどわたしたちは変わらないでいたいと願う。

 現実に戻ったら、またきっと再会する時にたくさん嬉しくなれる。でもやっぱり寂しいし切ない。切なくなるなら会わなければ良かったなんて思いたくないから、会ってしまった以上は覚悟しなければならない。

 

 日々に埋もれ出したらきっと、現実は戻る。戻ってほしくないと思ってはいけない。